監査役会設置会社と監査等委員会設置会社—結局どちらが楽か?

目次】

1.監査役会設置会社と監査等委員会設置会社—結局どちらが楽か?


  • 制度の基本—3つの機関設計
  • 最大の違い—「監査役」がいるかいないか
  • 主要な比較—7つの観点

 ① 人数・構成要件 
 ② 報酬の決め方 

 ③ 取締役会での発言・議決権

 ④ 業務執行への関与と権限委譲

 ⑤ コスト面

 ⑥ IPO審査での扱い

 ⑦ 社長(代表取締役)との関係


2.IPOにおいて監査等委員会設置会社が選ばれる理由3選 

3.【警鐘】急増する「特別注意銘柄」と「とりあえず監査等委員会」の罠~形骸化したガバナンスが招くIPOの悲劇

1.監査役会設置会社と監査等委員会設置会社—結局どちらが楽か?

【はじめに—「どちらにすべきか」という問いの立て方】


IPO準備中の経営者から、よくこう聞かれます。

「監査役会と監査等委員会、どちらにした方がいいですか」

この問いに「どちらが楽か」という視点で答えようとすると、必ず「それは何に対して楽なのか」という別の問いが返ってきます。

  1. コストが楽か
  2. ガバナンスの運用が楽か
  3. 社長にとって楽か
  4. 上場審査が楽か


これらは、必ずしも同じ答えを指しません。

この記事では、制度の違いを整理した上で「何を重視するかによって、どちらを選ぶべきか」が分かるように解説します。

制度の基本—3つの機関設計

会社法上、上場企業が選択できる機関設計は主に3つです。

【機関設計】

監査役会設置会社


監査等委員会設置会社


指名委員会等設置会社

【 監査・監督の主体 】

監査役会(常勤監査役必須)


監査等委員会(取締役で構成)


3委員会(指名・報酬・監査)

【 特徴 】

伝統的な形。監査役は業務執行から独立

2015年会社法改正で新設。監査役不


大企業向け。IPO準備企業には稀

制度の基本—3つの機関設計

 IPO準備企業が選択するのは、ほぼ「監査役会設置会社」か「監査等委員会設置会社」の2択です。 

【最大の違い—「監査役」がいるかいないか】

【監査役会設置会社

監査役という独立した役職の人間が、取締役会の外から監査を行います。


  1. 監査役会は最低3名(うち半数以上が社外監査役)
  2. 常勤監査役が1名以上必要
  3. 監査役は取締役の職務執行を監査するが、経営の意思決定には参加しない


【監査等委員会設置会社】


監査等委員である取締役が、取締役会の内側から監査を行います。


  1. 監査等委員会は最低3名(うち過半数が社外取締役)
  2. 常勤者の設置義務なし(常勤を置かないことも可能)
  3. 監査等委員も取締役なので、取締役会での議決権を持つ


この「取締役会の外から見るか、内から見るか」という構造の違いが、全ての差異の出発点になります。

主要な比較—7つの観点_① 人数・構成要件

【比較軸】

監査担当者の人数

常勤者の要件

社外要件

取締役会との関係

【監査役会設置会社】

監査役3名以上(社外過半数)

常勤監査役1名以上(必須)

社外監査役が半数以上

 取締役会とは別の機関

監査等委員会設置会社 】

監査等委員3名以上(社外過半数)

常勤者の設置義務なし

 社外取締役が過半数

 取締役会の中に設置

実務上のポイント

  • 監査等委員会設置会社では、常勤の監査担当者を置かなくてよいため、「常勤監査役を探すコスト・手間」が省けます。


  • しかし実際には、上場審査で「常勤で監査できる体制があるか」を確認されるため、常勤の担当者(常勤の監査等委員である取締役)を置くケースが多くなっています。

主要な比較—7つの観点_② 報酬の決め方

【比較軸】

報酬の決定方法


社長との関係

 個人別の配分

【監査役会設置会社】

株主総会で「監査役全員の報酬総額」を決議

監査役の報酬に社長は介入できない

監査役会で協議して決定

監査等委員会設置会社 】

株主総会で「監査等委員の報酬総額」を別枠で決議

同様に社長は介入できない

 監査等委員会で協議して決定

実務上のポイント

  • どちらの制度でも、監査担当者の報酬は「取締役(社長)の報酬とは別枠」で株主総会の承認を受けます。ただし監査等委員会設置会社では、監査等委員が「取締役」であるため、取締役全体の報酬枠との関係が複雑になる場合があります。

主要な比較—7つの観点_③ 取締役会での発言・議決権

【比較軸】

取締役会での議決権


選任議案への意見

【監査役会設置会社】

監査役は議決権なし(意見陳述のみ)

監査役は株主総会で意見陳述可(会社法345条)

監査等委員会設置会社 】

監査等委員も取締役なので議決権あり

 監査等委員は取締役の選任・報酬について株主総会で意見陳述可(会社法342条の2) 

実務上のポイント

  • 監査役には取締役会での議決権がないため、「意見は言えるが決定には参加できない」という立場です。
  • 監査等委員は議決権を持つため、取締役会の審議に実質的に参加できます。
  • 「業務執行からの独立性」という観点では「議決権がない方が純粋に監査できる」という考え方もあります

主要な比較—7つの観点_④ 業務執行への関与と権限委譲

【比較軸】

業務執行への関与


権限委譲の範囲

【監査役会設置会社】

 原則として関与しない(分離が明確) 

 重要な業務執行の決定は取締役会の専決事項が多い 

監査等委員会設置会社 】

取締役として業務執行に関与しうる


 重要な業務執行の決定を代表取締役に委任できる範囲が広い 

実務上のポイント

  •  監査等委員会設置会社の大きな特徴の一つが、取締役会から代表取締役への権限委譲の範囲を拡大できる点です。


  • これは「社長が機動的に判断できる」という意味でスピードアップにつながりますが、「取締役会が形骸化するリスク」もあります。


主要な比較—7つの観点_コスト面

【比較軸】

 人件費 


 社外役員の人数

【監査役会設置会社】

常勤監査役の報酬(相場:月額50〜100万円程度)

社外監査役2名以上+社外取締役の確保が必要 

監査等委員会設置会社 】

常勤者の義務なし(実態上は必要なことが多い)

 社外監査等委員(取締役)2名以上(監査役は不要) 

実務上のポイント

  •  表面上は、監査等委員会設置会社の方が「監査役報酬が不要になる」ため、コストが低く見えます。しかし実態は、監査等委員が取締役であるため「取締役報酬」として支払われ、常勤者を実質的に置くコストは変わらないケースも多いです。

主要な比較—7つの観点_IPO審査での扱い

【比較軸】

審査実績


 常勤監査の確認 


 三様監査の連携

【監査役会設置会社】

従来からの制度で審査実績が豊富


常勤監査役の活動実態が確認される


常勤監査役・監査法人・内部監査の連携が問われる

監査等委員会設置会社 】

2015年以降増加しているが、監査役会より実績は少ない

常勤で監査できる体制があるかが確認される

監査等委員・監査法人・内部監査の連携が問われる

実務上のポイント

  • IPO審査では、どちらの制度でも「実質的な監査が機能しているか」が問われます。制度の選択よりも、常勤で監査できる人材がいるか・三様監査の連携が取れているかの方が、審査上の重要な確認ポイントです。

主要な比較—7つの観点_社長との関係

【比較軸】

牽制の構造


解任要件


 社長の介入しにくさ

【監査役会設置会社】

「外から見る」独立性の高い監視


監査役は株主総会の特別決議でのみ解任可能

 社長が監査役報酬・選任に介入しにくい構造

監査等委員会設置会社 】

「内から見る」取締役会内での影響力

監査等委員(取締役)は株主総会の普通決議で解任可能(任期2年)

 取締役として社長と同じ取締役会に属するため、関係性が複雑になりやすい 

実務上のポイント

  • 「社長からの独立性」という観点では、監査役会設置会社の方が構造的に独立性を確保しやすいという評価があります。


  • 監査等委員は「取締役」として社長と同じ取締役会に属するため、「社長との人間関係に引っ張られやすい」という懸念もあります。

まとめ—どちらを選ぶべきか

 【監査役会設置会社が向いている場合】


  1. 社長から独立した監査体制を明確に作りたい
  2. 常勤監査役として適任の人材がいる(または探せる)
  3. 伝統的なガバナンス構造を好む投資家・取引所に対応したい
  4. 取締役会の権限委譲範囲を現状のまま維持したい


【監査等委員会設置会社が向いている場合】


  1. 取締役会から代表取締役への権限委譲範囲を広げたい(スピード経営を維持したい)
  2. 「監査役」という独立した人材を確保することが難しい
  3. 取締役会の中で監査機能を統合したい
  4. 社外取締役の確保は比較的容易な場合

「当事者の本音」

 【常勤監査役の立場から】

「監査役会設置会社は、社長から完全に独立した立場でものを言える。言いにくいことも、役割として言える。これは監査役会という制度の強みだと思う」

【経営者の立場から】

「監査等委員会にした理由は、権限委譲範囲を広げられるから。社長が機動的に判断できることと、ガバナンスの強化は両立できると思っている」

【主幹事証券の観点から】

「制度の選択よりも、誰が常勤で監査するか、その人が実質的に機能しているかの方が審査上は重要。制度だけ整えても中身が伴わなければ意味がない」

「どちらが楽か」という問いへの答え

冒頭の問いに、改めて答えます。

【社長にとって「楽」を求めるなら】

  • 監査等委員会設置会社(権限委譲範囲が広がる)



【監査役にとって「独立性が守られやすい」のは】

  • 監査役会設置会社


【ガバナンスの「説明可能性」という点では】

  • どちらも同水準(実態が伴っていることが前提)


【IPO審査の「通過しやすさ」という点では】

  • 大きな差はない(中身の充実度の方が重要)


「どちらの制度を選ぶか」より「選んだ制度の中でどう機能させるか」——これが、IPO準備企業のガバナンスの本質的な問いです。

2.IPOにおいて監査等委員会設置会社が選ばれる理由3選

①役員の「必要人数」が少なくて済む(人材確保のハードル)
②海外投資家からのウケが良い
③迅速な意思決定(権限委譲)

①役員の「必要人数」が少なくて済む(人材確保のハードル)

  1.  監査役会設置会社で上場するには「取締役3名以上 + 監査役3名以上(うち社外2名)」が必要です。
  2. 監査等委員会設置会社なら「取締役(業務執行)1名以上 + 監査等委員である取締役3名以上(うち社外2名)」で済むため、要件を満たすための社外役員を探すコストが下がります。

②海外投資家からのウケが良い

  1. 日本の「監査役(Kansayaku)」という制度は海外に存在しないため、外国人投資家から「役割が分かりにくい」と敬遠されがちです。
  2. 欧米型の「監査委員会」に近い監査等委員会の方が、グローバルスタンダードに合致しており説明がしやすいというメリットがあります。

③迅速な意思決定(権限委譲)

  •  取締役会の議決事項(業務執行の決定)の多くを、経営陣(取締役)に委任することができるため、スピーディーな経営が可能

3.【警鐘】急増する「特別注意銘柄」と「とりあえず監査等委員会」の罠~形骸化したガバナンスが招くIPOの悲劇~

  • IPO準備において、ガバナンス体制の構築は避けて通れない最重要課題です。
  • しかし近年、「形だけ」の体制整備が招く悲劇が後を絶ちません。 今回は、東証の最新の動向である「特別注意銘柄の急増」と、昨今ブームとなっている「監査等委員会設置会社への移行」に潜む恐ろしい落とし穴について解説します。 


①容赦なく下される鉄槌「特別注意銘柄」指定のリアル 
②「とりあえず監査等委員会」ブームに潜む落とし穴 

 ①容赦なく下される鉄槌「特別注意銘柄」指定のリアル 

  • 2024年1月、従来の特設注意市場銘柄制度が見直され、新たに「特別注意銘柄制度」が導入されました。この新制度は、内部管理体制に問題のある上場会社に対して早期の体制整備を求め、改善の実効性を高めることを目的としています。 


  • JPX自主規制法人の「年次報告 2025」によれば、新制度開始後の2024年度だけで4銘柄が特別注意銘柄に指定されています。 


  • これらの企業の不祥事の背景を見ると、ある共通点が浮かび上がります。それは、経営トップによる内部統制の無効化(暴走)と、「監査機能の不全」です。


  • たとえば、ある指定企業では、代表取締役の不適切な行為に対し、常勤監査等委員を含む取締役が是正を求めることなく放置・追認していました。また別の企業では、監査役会や各監査役が稟議書を形式的に確認するだけで、支出の具体的内容や経緯を確認しておらず、長期間にわたり不正を見逃していました。 


  • IPO審査においても、こうした「監査役(監査等委員)が機能しているか」は最も厳しくチェックされます。


  • もし不祥事を見逃せば、上場延期・廃止の引き金になるだけでなく、監査役自身の「善管注意義務違反」として巨額の損害賠償請求に発展するリスクすらあるのです。

 ②「とりあえず監査等委員会」ブームに潜む落とし穴 

  • 近年、IPO準備企業の間で「監査等委員会設置会社」への移行が一種のブームになっています。「社外取締役の人数を確保しやすく、機関設計がスマートに見える」というのが主な理由です。


  • しかし、実態はどうでしょうか。 本来、監査等委員は「取締役」として議決権を持ち、より強力な監査・監督権限を行使できます。しかし、多くの中堅・ベンチャー企業では、「旧・常勤監査役が、そのまま常勤の監査等委員に横滑りしただけ」というケースが散見されます。


  • ここで発生するのが、「常勤監査等委員の激務化・パンク問題」です。 強力な権限を持つがゆえに、カバーすべき業務範囲は広範に及びます。しかし、実務をサポートする「内部監査部門」や「監査等委員会室(監査役スタッフ)」が脆弱なまま機関設計だけを移行した結果、たった1人の常勤監査等委員が膨大な書類の山とヒアリングに忙殺され、肝心な「リスクの兆候」を見落としてしまうのです。


  • 前述の特別注意銘柄に指定された企業の中にも、内部監査体制が十分に整備されておらず、監査等委員によって形式的な内部監査計画の策定が行われていた事例がありました。これこそが、「とりあえず移行」の最も恐ろしい落とし穴です。 


安易な移行は避けるべきです。 

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